メンタルモデルとは?具体例やビジネスにおける活用方法を紹介
マーケティングにおいて、ユーザーのメンタルモデルを知るのが重要だと言われることがあります。しかし、メンタルモデルとはどのようなものなのかよく知らないという方もいるでしょう。
そこでこの記事では、メンタルモデルとは何か具体例を交えながらわかりやすく解説。さらに、ユーザーのメンタルモデルを知ることで得られるメリットや、メンタルモデルの調べ方も解説します。
メンタルモデルについて詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください。
目次
メンタルモデルとは
メンタルモデルとは認知心理学の分野で使われる言葉で、簡単にいえば人間が持っている思い込みや価値観のことを指します。多くの場合「自分はこうしたメンタルモデルを持っている」と認識しておらず、無自覚なことも特徴です。
メンタルモデルは、人間が何らかの考えにたどり着くまでの前提ともいえるものです。それまでの経験をもとに作り上げられるもので、思考の土台ともいえます。
何かを考えるとき、まったくゼロから考えることはありません。考え方の前提にはメンタルモデルが存在します。メンタルモデルが悪い方向に現れたものが「先入観」です。メンタルモデル自体は単なる考え方のもとであり「正解」や「不正解」はありません。
人間はメンタルモデルからさまざまな思考が生まれ、その思考をもとに行動します。そのため「顧客に行動してもらう」ことが重要な分野では、メンタルモデルが重要視されているのです。
メンタルモデルの例
前項の解説を読んで、なんだか抽象的でわかりにくいと感じた人もいるでしょう。そこでここからは、次の3つの具体例をもとにメンタルモデルについて解説します。
- 高いところに対する感じ方の違い
- 食事に対する考え方の違い
- 室内での過ごし方の違い
高いところに対する感じ方の違い
高いところに上った時の感じ方は、人によって異なります。例えば「怖い」と感じる人もいれば「見晴らしが良い」と感じる人もいますよね。
こうした感じ方の違いは、過去の経験に基づいたメンタルモデルの違いから発生していることもあるのです。例えば、高いところから落ちてケガをした経験がある人は「怖い」と感じやすく、展望台からの景色を楽しんだ経験が多い人は「見晴らしが良い」と感じる可能性があります。
このように、同じ場所に対してまったく異なる感想を持つ背景には、なんらかのメンタルモデルの違いがあるかもしれません。
食事に対する考え方の違い
どのような文化の中で育ってきたかによっても、メンタルモデルは異なります。
例えば日本では、出された食事は残さず食べるのがマナーとされています。一方中国では、出された料理は少しだけ残すのがマナーです。食事を残すことで「食べきれないほど十分にもてなしてもらった」という意思を表します。お互いのマナーを知らなければ相手を「マナーが悪い人」と感じてしまうほど、正反対の考え方です。
上記はわかりやすい極端な例ですが、日本の中でも地域によって文化は異なります。また、年代によって触れてきた文化が異なる場合もあるでしょう。そうしたちょっとした違いが、メンタルモデルの違いに繋がるケースもあります。
室内での過ごし方の違い
日本では室内に入る際靴を脱ぎますが、欧米では靴を履いて過ごすケースが多くあります。そのため、過ごし方にも大きな違いが生じます。
例えば、日本のアニメドラマといった映像作品では畳の部屋で床に座ってちゃぶ台を囲むシーンや、床に布団を敷いて眠るシーンがよくあります。日本で生まれ育っていると特に違和感のないシーンですが、土足文化で育った人の中には違和感や抵抗感を覚える人もいるようです。
また、ホテルのベッドには足元に布が置かれています。これは「ベッドスロー」と呼ばれるもので、土足のままベッドに足を乗せても布団が汚れないように置かれているものです。しかし、靴を脱ぐ習慣の中で育った日本人の中には、ベッドスローの名前や目的を知らない人も少なくありません。
こうした過ごし方の違いも、メンタルモデルの差と考えられます。メンタルモデルが異なると、求める商品やサービスにも違いが生じることがあるのです。
ユーザーのメンタルモデルを知るメリット
商品やサービスを開発する前に、ユーザーのメンタルモデルを知っておきましょう。ユーザーのメンタルモデルを知ると、次のようなメリットがあります。
- 新たな視点や発想につながる
- ターゲットを拡大できる可能性がある
- より使いやすい商品を開発できる
- 効果的な広告戦略を考えられる
新たな視点や発想につながる
自分とまったく違ったメンタルモデルを持った人の行動や考え方は、なかなか想像できないものです。そのため、メンタルモデルを知ることで、新たな視点や発想につながる可能性があるのです。
例えば、普段から室内では靴を脱いで生活している人は「靴を履いたままベッドに横になりたい」というニーズに気付くことはないでしょう。しかし、そんな人でも「ベッドに乗る時は靴を脱ぐ」というメンタルモデルを知れば「靴を履いたままベッドに横になりたい人もいるのではないか」という発想にたどり着ける可能性があります。
ユーザーのメンタルモデルを知ることで、必要とされている商品やサービスに気付ける可能性があるのです。
ターゲットを拡大できる可能性がある
さまざまなユーザーのメンタルモデルを知ることで、既存の商品やサービスをより多くの人に販売できる可能性があります。
例えば、有名な話として「エスキモーに冷蔵庫を売る」があります。「冷蔵庫は食品を冷やすためのもの」というメンタルモデルを持っている人間から見ると、氷に囲まれた地域に住んでいるエスキモーに冷蔵庫を売るのは難しいと考えがちです。
しかし「食品を凍らせず適温で保存するための箱」として提案したところ、エスキモーの人々に売れるようになったとのことです。
このように、ユーザーのメンタルモデルがわかると、今までよりも販売ターゲットを拡大できる可能性があります。
より使いやすい商品を開発できる
メンタルモデルを知ることで、より使いやすい商品を開発できる可能性があります。
例えば、右利き用のはさみは左利きの人にとっては非常に使いにくいものですが、右利きの人がそれに気付く機会は多くありません。しかし、左利きの人のメンタルモデルを調査し「はさみが使いにくい」という情報が得られれば、その理由を追及するきっかけとなります。
理由がわかれば、使いやすい商品の開発に繋げられます。このように、メンタルモデルを知ることで便利な商品を開発できる可能性があるのです。
効果的な広告戦略を考えられる
メンタルモデルを知ることは、広告戦略にも役立ちます。
広告には、必ずターゲットがいます。ターゲットが共通して持っているメンタルモデルを調査すれば、より効果的な広告戦略にたどり着ける可能性があるのです。
例えば、共働きで子育て中の人をターゲットとした商品を販売する場合を考えてみましょう。共働きで子育て中の人は自由な時間が少ないため「家事にかける時間をできるだけ減らしたい」と考えている人が多くいます。そのメンタルモデルがわかれば、家事にかける時間をどれだけ減らせるかを示すアプローチが有効だとわかります。また、いわゆる「丁寧な暮らし」を紹介するような雑誌に広告を掲載しても効果が低いことも想像できるでしょう。
このように、メンタルモデルを知ることは、効果的な広告戦略を考えるために有効です。
メンタルモデルをビジネスで活用する方法
メンタルモデルは、ビジネスにおいて次のようなシーンで活用できます。
- マーケティングにおける活用
- UI/UXデザインにおける活用
- チーム運営における活用
それぞれ、詳しく解説します。
マーケティングにおける活用
上記で紹介したように、メンタルモデルはマーケティングで大いに活用できます。多くの人のメンタルモデルがわかれば、今までとは違った切り口で商品やサービスをアプローチできる可能性があります。また、ターゲットが共通して持っているメンタルモデルがわかれば、効果的な広告戦略を考えるためのヒントとなるのです。
また、メンタルモデルが「買わない理由」となっているケースもあります。例えば「派手な色のジュースはなんとなく体に悪そう」といったようなものです。この場合、派手な色がついている理由とともに体に悪くないことをアピールする、色を控えめにするといったアプローチで、より多く売れるようになる可能性があります。
マーケティングにメンタルモデルを活用するためには、自分とは違ったメンタルモデルを持つ人を見つけ、考え方を詳しく知る必要があります。自社の商品やサービスを、想定とは違った使い方をしているユーザーを見つけてメンタルモデルを探ると、多くの情報が得られやすいでしょう。
UI/UXデザインにおける活用
UI/UXデザインにおいても、メンタルモデルを活用できます。
多くの場合、ユーザーは商品やサービスに対して何らかのメンタルモデルを持っています。そのメンタルモデルに沿ったデザインを作ると「使いやすい」と感じられる商品になるのです。
例えばWebサイトの場合、右上に3本横線が並んだアイコンがあれば、多くの人は「クリックしたらメニューが表示されるだろう」と想像します。しかし、そのアイコンをクリックするとサイトのトップページに飛ばされてしまうような構造になっていた場合、ユーザーは「使いにくい」と感じるでしょう。
また、メニューを開くボタンにオリジナルのアイコンが使われていると、ユーザーはメニューを見つけられず困ってしまうかもしれません。
このように、ユーザーのメンタルモデルを知っておくことで優れたUI/UXデザインの作成に役立ちます。
チーム運営における活用
チーム運営をスムーズにするためには、メンタルモデルを共有しておくことが重要です。
例えば「より多くのアイディアを出して人からフィードバックをもらった方が効果的だ」と考える人と「自分でじっくり考えてアイディアを練ってから発表するのが効果的だ」と考えている人が同じチームにいると、双方が仕事のやりづらさを感じる場合があります。
どちらも誤りではありませんが、チーム内でどのような方針をとるのか決めておくと、スムーズに仕事を進められる可能性が高まるのです。チーム内で食い違いが生じたら、メンタルモデルのすりあわせを行っていくことでより良いチームに近付けます。
ユーザーのメンタルモデルを調査する方法
ユーザーのメンタルモデルを調査するには、次の3つの方法が効果的です。
- インタビュー
- カードソーティング
- 行動観察
それぞれ、詳しく解説します。
インタビュー
インタビューでユーザーに直接話を聞くと、メンタルモデルがわかる可能性があります。
インタビューを実施するのであれば、まずは目的を決めましょう。さらに、その目的にあったユーザー像を設定します。例えば「1人暮らしの学生の全自動洗濯乾燥機を販売するためのキャッチコピーを作りたい」と目的を設定したとしましょう。このときインタビューすべきは「全自動洗濯乾燥機を持っていない1人暮らしの学生」です。さらに、性別や通学にかかる時間などの属性で絞り込むと、より効果的です。
質問する際には、ユーザーに「どんなアプローチを魅力的に感じるか」を直接聞いてはいけません。考えて思いついた答えには、一般論が混ざってしまうことも多いためです。
それよりも、どんな時間帯に洗濯するのか、洗濯にどれくらいの時間がかかるのかといった行動を聞き取るのが重要です。また、なぜそのような行動をするのか、理由も確認できるとさらに良いでしょう。
行動観察
インタビューではユーザーに質問することで行動を把握しますが、さらに詳細な情報を確認できるのが行動観察です。行動観察とは、実際にユーザーが商品やサービスを利用しているところを見せてもらい、価値観を確認する方法です。
例えば「目を覚ますため朝はコーヒーを飲んでいる」という人の中にも、ゆったり腰掛け味わいながら飲む人もいれば、慌ただしく準備をしている合間で流し込むように飲む人もいます。両者は、コーヒーに対して求めるものが違うと考えられるでしょう。
実際に行動を観察すると、インタビューより多くのメンタルモデルを確認できる可能性があります。
カードソーティング
カードソーティングとは、Webデザインを構築する際によく使われる手法です。Webサイトを構成する要素をカードに書き出し、それをカテゴリごとに分類してもらいます。
すると、ユーザーが何を同じグループとして考えているかがわかります。また、それぞれのグループに分類名をつけてもらうことで、ユーザーにとってどのような言葉がなじみ深いのかもわかるのです。
複数のユーザーにカードソーティングを依頼し、より多くのユーザーが「同じグループ」と考えた要素同士を近付けて配置すると、使いやすいWebサイトを構築できます。また、ユーザーの意見が分かれた場合には、複数箇所に要素を配置するなどの工夫をすると良いでしょう。
まとめ
この記事では、メンタルモデルについて解説しました。
メンタルモデルとは、人間が無意識に持っている思い込みや価値観のことです。人間は、メンタルモデルをもとに行動しています。
ユーザーのメンタルモデルを知ると、新たな発想が得られる、より使いやすい商品を開発できるといったメリットがあります。また、UI/UXデザインやチーム運営にもメンタルモデルを活用可能です。
この記事を参考に、自分自身のビジネスでメンタルモデルを活かせないか考えてみてください。